日刊工業新聞(不撓不屈)掲載:大和鋼機③ ~あえて自らに試練~
2016年8月5日
【技術学び市場の広さ確認】
モノづくり 決断
「会社員を続けるのか、大和鋼機に入るのか、真剣に考えてほしい」-。金属材料試験片加工を専門に手掛ける大和鋼機(東京都大田区)社長の松本大(ひろし)が父の松本治から選択を迫られたのは2010年。松本は当時25歳で、半導体や液晶製造装置の洗浄装置メーカーで営業を担当していた。
幼い頃から会社を継ぐことを意識していたため、迷いはなかったが、入社すれば社長就任は避けられない。不安を感じた松本はあえて試練に立ち向かおうと、自伝車で東京から大阪まで旅をした。無事に旅を終え、「何でもやってみればできる」と感じた松本は入社を決断した。
松本は幼い頃から算数や工作などモノづくりに係る科目が苦手で、大学では哲学を専攻した。ただ身の回りにはいつもモノづくりがあった。「将来的に会社を継ぐと思いながら育ったため、中小企業で経験を積んだほうが良いと思い、あえて大手メーカーにはいかなかった」という。
代えがたい経験
決して手先が器用ではない松本だったが、入社後、まず技術の習得に取り組んだ。旋盤、フライス盤、研磨機、ハンドソーなど全てを使いこなせるよう必死に経験を積んだ。「モノづくりには、手先が器用でなくても努力すればできる面白さがある。何度も失敗して成功したときのうれしさがある。これは何にも代えがたい」と明るく笑う。
入社3年目からは東京電気大学機械工学科2年に編入。現在も大学に籍をおき、技術を学び続けている。「特に技術職員の涌井正典先生にはお世話になっている。実習で手を動かしながら教えてもらい、直接仕事に役立つ。社長としての心構えも教えてもらった」と明かす。
売り上げ2割増
松本は営業活動も強化した。目標に掲げたのは、人も設備も変えずに売り上げを2割高めること。そのためにホームページを作成した。「2~3年で効果が出ればいいと思っていたが、開設した次の日には問い合わせの電話があった。早速受注が決まり、うれしさがこみ上げた」。
さらに前職で行った飛び込み営業の経験も生かした。試験機を持っている会社に電話をかけ、仕事を取った。その結果、15年に見事売り上げ2割増を達成。従来は6都府県だけだった取引企業も、19都道府県に増えた。
「これまで鍛造を手がける会社などが主な取引先だったが、試験片は工業高校をはじめさまざまなところで使われている。試験片の市場は自分が思ったよりも広かった」と松本。大和鋼機が50年以上にわたり手がけてきた試験片の実力にあらためて感じ入った。
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